尾崎勝彦(徳洲会インフォメーションシステム株式会社 社長)

徳洲会グループの電子カルテ化は、1997年11月に八尾徳洲会総合病院がオーダリングシステム(ソフトウェアサービス=SSI)を導入したことから始まりました。翌年4月には岸和田徳洲会病院もオーダリングシステム(富士通)を導入。

システム導入は、薬局での待ち時間短縮や請求漏れの防止などが主な目的でした。その後、湘南鎌倉総合病院など、超規模病院にも導入が進みました。電子カルテの転機は厚生労働省が2001年12月26日に策定した保健医療分野の情報化に向けてのグランドデザインでした。このなかで医療情報システム構築の達成目標が設定され、電子カルテシステムを04年度までに全国二次医療圏ごとに少なくとも1施設に普及、06年度までに全国の400床以上の病院の6割以上に普及を図ることが明記。これにより電子カルテ導入に対する助成金が徳洲会グループ8病院に適用されました。

当時、八尾病院や湘南鎌倉病院が導入した初期バージョンの電子カルテシステムは、構築にかなりの困難をともないました。現在の電子カルテは当時の半分以下の費用と時間、労力で構築できますが、私たちは先人たちの努力を忘れてはいけないと思います。

複数の診療科で受診する患者さんにとっては有効

8病院は、富士通製の電子カルテを導入。しかし開発が遅延したため、先にSSIのオーダリングシステムを導入していた八尾病院の電子カルテ化を、徳田虎雄理事長が決断。以後、徳洲会インフォメーションシステム(TIS)が設立されるまで富士通とSSI2つの電子カルテが各病院に導入されていきました。しかし、二元管理された電子カルテシステムでは、病院間のネットワーク化や統計データなどの一元管理ができません。そこで、電子カルテの供給企業を一元化し、各システムのコードの標準化を目的に、TISの設立が決まったのです。

電子カルテにより、カルテ管理に必要なスペースと手間がなくなり、検査結果などもデータベース化されるため、複数の診療科にまたがり診察を受ける患者さんにとっても有効です。処方箋(せん)も電子カルテからコピーできるため、時間短縮と同時に間違いも減少します。

一般に電子カルテは、医師が患者さんを見ずにモニターと対話する状況が生まれるといわれていますが、現状では医師が電子カルテに慣れ、そうした声は少なくなったようです。しかし医師がコンピュータに向き合う時、そのことを意識しておくことが大事だと思います。

マイナンバーの医療機関への適用で変わることは

今年5月24日の参議院本会議で、与党や民主党などの賛成多数でマイナンバー法が成立しました。16年1月から運用開始を目指しているマイナンバー制度が医療機関に適用されれば、徳洲会グループ外の医療機関とのカルテ連携が可能になります。現在の電子カルテは、各医療機関がEMR(Electronic Medical Record)を管理しています。同制度が導入されれば、全国でカルテを共有しあえるEHR(Electronic Health Record)が実現します。さらに、EMRやEHRに記録される医療・健康情報を、個人が自らPHR(Personal HealthRecord)として管理・活用することで、本人の健康意識や理解の向上、生活習慣病の予防、重症化の防止が期待されています。同時に個人の意思でセカンドオピニオンや他の領域の診療への活用が可能となり、救急時を含めた医療の質の向上や不要な検査の削減などにも寄与します。すでに英国や米国、カナダは、国家プロジェクトとして1兆~2兆円の予算で、EHR・PHRの構築に取り組んでいます。

日本でも全国数十カ所で国の補助金を受け、地域ごとのEHRの構築が試みられていますが有効活用されている例は少なく、企業の考え方が異なるためネットワークやID、コード連携などが各地域で異なり、全国のEHRのインフラにはならないと思われます。

徳洲会グループの電子カルテは、80%の施設で標準化されましたが、患者さんに医療情報を提供することを大きな目標としています。無限の想像力を発揮し、理事長は不可能と思われたことを次々と可能にしてきました。それは、貫き通すだけの覚悟があったからだと思います。

夢を抱きそれを貫き通す覚悟をもって、皆で頑張りましょう。

徳洲新聞2013年(平成25年)6/3  NO.880 より